冷たい舌
熱いカウンタックの天井に頬杖をついていた忠尚は、ふてたように透子たちを見ていた。
「この馬鹿。調子よく乗せられてんじゃねえか。
やっぱ、戻ってくるんじゃなかったな、和尚。
―和尚?」
振り返ると、和尚は木陰の石段の方に向かっていた。
「おい、何処行くんだよ?」
足を止めた和尚は、
「もう用はすんだだろ」
と、つれなく言い放つ。
「俺は透子が嫌がってたから、協力してやらなきゃいけないかと思っただけだ」
石段を覆う緑の陰に消えてしまう兄を見ながら、忠尚は一人ごちた。
「ちぇっ、かわいくねえの!」
そのとき、透子の叫び声が上がった。
「やだっ、忠尚っ。車に指紋つけないでよっ。それ磨くの大変なんだからっ」
忠尚は、なおもへばり付いたまま、うるせえっと怒鳴り返す。
「俺、お前が磨いてんの見たことねえぞっ。
磨いてんの、いつも俺たちか龍也(たつや)じゃねえかっ!」
龍也というのは透子の弟だ。
あら、そうだったかしら、と透子は誤魔化すように艶やかに笑ってみせる。
それを見ていた春日も微笑み、なんだか二人の息が合っているように見えて、忠尚はますます機嫌を悪くした。