フキゲン課長の溺愛事情
 達樹が腰を伸ばして言う。

「また昨日と同じやりとりを繰り返す気か? いいかげん慣れろ。水上が住んでいるのは俺の部屋だ。いつまで経っても起きない同居人を親切にも起こしてやろうとしてなにが悪い?」

(出た。課長の『なにが悪い?』理論)

 璃子は小さく息を吐いた。

「なにも悪くありません。起こしてくださってありがとうございます。着替えますから出て行ってください」
「言われなくてもそうする。朝食はできているからな」

 達樹が言って部屋を出て行った。

(課長、今日も朝食を作ってくれたんだ。今日こそ私が作ろうと思ってたのに、ダメダメじゃないの……)

 作ります、と宣言しなかったことだけが不幸中の幸いだ。

 肩を落としながら着替えて、洗面所に向かった。顔を洗ってメイクをしてダイニングに行ったときには、達樹は椅子に座って新聞を読んでいた。璃子が入ってきたのに気づいて、マグカップにコーヒーメーカーのコーヒーを注ぐ。
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