フキゲン課長の溺愛事情
 達樹が手羽先のピリ辛揚げに手を伸ばし、ひとつつまんで食べ始めた。ひと口食べてなにか考えるような表情をする。

(辛いの嫌いだった?)

「お口に合いませんでした?」

 璃子は心配になって訊いた。

「ん? あ、いや。水上の言葉通りビールが進むよ。ちょっと考え事をしてたんだ」
「考え事?」

 達樹がビールを数口飲んで、おもむろに璃子を見た。

「ああ。水上はこの週末、どうするつもりなのかと思ったんだ」
「とくに予定はありません。課長は?」
「日曜日は友人の結婚式があるんだが、明日は予定がないんだ。一緒に出かけようか」

 璃子は〝大根とホタテのサラダ〟を食べていた箸を止めた。

「私と課長とがですか?」
「おかしいか?」

 真顔で聞き返されて、璃子は首を振る。

「おかしくはないと思いますけど、いったいどこへ?」
「奥美郷町」
「奥美郷町!?」
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