フキゲン課長の溺愛事情
「え?」

 達樹の言葉の意味がわからず、璃子は彼を見上げた。達樹は悲しげに視線を璃子から逸らす。

「昨日、服を脱がせようとしたとき……和田の名前を出したから、もしかしたら璃子はまだ山城のことを引きずってるんじゃないのか、と思ったんだ。でも、俺に抱かれることで山城を吹っ切れるのなら、と思って……」
「課長?」

 璃子は足を踏み出し、彼を下から見上げた。達樹が一歩下がって璃子から離れる。

「いや、違う。そんなのは嘘だ。本当は俺が璃子を抱きたかった。璃子が欲しかっただけなんだ。すまない。今さら信じてもらえないかもしれないが、無理矢理抱くつもりはなかった。璃子が山城を忘れるまで待とうと思ってたんだ」
「ちょっと待ってください!」

 璃子が一歩進み、達樹が一歩下がって、彼の背中が廊下の壁にぶつかった。

「私、チャペルの庭で課長が話してるのを聞いたんです。課長、『後悔してる』って言ってましたよね? 『あんな形で抱くべきじゃなかった』って。あんなことを言ったのは……本当はまだ美咲さんのことが好きなのに、私を抱いたことを後悔してたからじゃないんですか?」

 達樹が驚いたように璃子を見た。
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