フキゲン課長の溺愛事情
「招待状を忘れたのはたしかだが、住所はわかるし、そのご祝儀袋は今日は必要なかった」
「ああ、そうなんですね。お渡ししなくてよかったです」

 璃子の言葉を達樹が聞き咎める。

「ちょっと待て。式場に来たのか?」
「行きましたよ。でも、不要なものだから渡さずにすんでよかったって言ったんです。余計なお世話なことをするところでした」
「わざわざ届けに来てくれたんだな。会えなかったけど、うれしいよ。ありがとう」
「いいえ、じゃ、もう離してください」

 璃子は達樹に手首を握られたままの左手を、これ見よがしに振って見せた。本当に早く離してほしかった。手首から伝わる彼の体温にドキドキしてしまう自分が、哀れに思えて仕方がなかった。

「さっきからそういう他人行儀な態度を取るのは……俺に腹を立てているからなのか?」
「よくおわかりですね」

 璃子はわざと冷ややかな目で彼を見た。達樹が表情を曇らせ、璃子の手を離した。やり場のない想いを晴らすかのように前髪を掻き上げ、ふぅっと大きく息を吐く。

「そうだったのか……。やっぱり璃子はまだ山城のことを忘れたわけじゃなかったんだな……。謝って済むことじゃないのかもしれないが……あんなことをして本当に悪かった」
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