フキゲン課長の溺愛事情
「課長?」
「いや、ここに住んでいた」
「え、じゃあ、ストックホルムに滞在しながら、ここの家賃も払ってたってことですか?」
「まあそういうことだな。実家に荷物を置くわけにもいかなかったし、トランクルームに移すのも面倒だったから」
「そうなんですか……」
「ただ、ひとりで住むには広すぎるから、シェアしてくれる人がいるならありがたいと思ったんだ」

 達樹がチラッと璃子に視線を向けた。なんの感情も読み取れないその目は、だからこそ逆に誠実そうにも思えてくる。

(なんの下心もなく、本当に親切心から言ってくれてたのかな……?)

 とはいえ、付き合ってもいない男女が――しかも男性の上司と女性の部下が――ひとつ屋根の下で暮らしているというのは、世間的にもいろいろと誤解を招いて面倒そうだと思ってしまう。

「ご親切なお申し出をお断りして申し訳ありません」
「いや、こっちこそ。二度も言って悪かった」
「いえ」

 璃子が恐縮しているうちに、達樹はベーコンも焼き、冷蔵庫のベビーリーフとともに皿に盛った。ちょうどトーストも焼き上がり、ボリュームたっぷりの朝食ができあがった。
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