フキゲン課長の溺愛事情
「水上はコーヒーになにか入れる?」
「あ、ミルクだけ」
「牛乳でいいか?」
「はい」
「じゃあ、悪いが冷蔵庫から出してくれ」

 璃子は言われて大きめの冷蔵庫を開けた。ひとり暮らしにしては大きなその冷蔵庫の中には、卵やチーズのほかに、缶ビールとペットボトルのスポーツ飲料が並んでいた。

 璃子が冷蔵庫の扉裏からパック入りの牛乳を出してテーブルに置く間に、達樹がコーヒーメーカーで淹れたコーヒーを、おそろいの白いコーヒーカップに注いだ。そのひとつを渡され、璃子はそこに牛乳を入れる。

「課長はブラックですか?」
「ああ」

 璃子が牛乳を冷蔵庫に戻すのを待って、達樹が席に着いた。

「それじゃ、食べようか」
「はい、いただきます」

 璃子が両手を合わせて言うのを見て、達樹が口もとを緩めた。

「水上もそうする派か」
「そうする派?」
「なんでもない」

 達樹が言って、「いただきます」とボソッと言うと、コーヒーカップを取り上げた。
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