フキゲン課長の溺愛事情
 彼がコーヒーを飲むのを見ながら、璃子は不思議な気分になる。

(私が入社する前に課長はストックホルムに赴任したから、私、課長のことを直接は知らないのよね~)

 スウェーデン出向前、達樹は繊維事業部企画課で都市計画を立案していた。その計画のひとつがストックホルムのエコタウン研究センターで採用されることになり、彼が現地でプロジェクトに従事することになった、と聞いた。当初は三年の予定だったのに、能力を買われてそのままさらに二年ストックホルムで勤務したそうだ。現地のプロジェクトの目処が立ったのと、日本でも同様のエコタウン研究センター設立計画が持ち上がったのとで、今回、実績のある彼が帰国して課長に就任したのだ。

(すごくデキる男性なんだろうなとは思ってたけど、こんなふうに愛想が悪くてよく現地に溶け込めたよねぇ)

 感心しながら見ていると、達樹がわずかに眉を上げた。なんだ、と言いたげなその表情に、璃子はなんでもありません、と首を振った。

(とはいえ、泥酔して廊下で後輩を押し倒しているような部下を見捨てなかったんだから、面倒見のいいやさしい人なのかも)

 そんなことを思いながら、璃子は朝食をおいしくいただいたのだった。 
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