フキゲン課長の溺愛事情
 そうして迎えた月曜日。うとうとと浅い眠りの中をたゆたっていたせいか、普段ならスマートフォンのスヌーズ機能でどうにか起きているのに、今日は一度目のアラーム音で目を覚ました。

(会社に行きたくないよぅ……)

 啓一と別れたこともその一因だったが、達樹から聞いた自分の悪行を思うと、ますます気が重くなった。五年も付き合っていた恋人に振られ、居酒屋で醜態をさらし悪行を働いたことが、いったいどこまで広まっているのだろう。

 不安でドキドキしながら、人目を避けるように早めに出社した。けれど、誰もいないと思っていた広報室には、すでに沙織が来ていて、璃子を見たとたん申し訳なさそうな顔をした。

「あ、璃子、金曜日は大丈夫だった?」
「なにが?」
「なにがって……だって……藤岡課長と酔っ払った璃子を残して帰っちゃって……課長には『気にせず帰れ』と言われたけど、やっぱり気になって……」

 璃子はジャケットをハンガーラックに掛けてから沙織に向き直った。週末、何度か沙織に連絡しようとしてできなかったのだが、それは内心、彼女に呆れられて見捨てられたんじゃないかと不安だったからだ。でも、沙織は課長が言った通り、彼に言われて帰っただけだとわかって、璃子はホッとした。

 それでも、やはり自分の〝悪行〟が恥ずかしい。

「ごめん」

 璃子の謝罪の言葉を聞いて、沙織が戸惑った顔をした。

「なんで璃子が謝るの?」
「だって、沙織にも青葉くんにも迷惑かけた気がするもん」
「私は大丈夫だよ。あんなことがあったら、誰だって荒れるわよ。青葉くんだってそんなに気にしてないと思うけど」
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