フキゲン課長の溺愛事情

　璃子の言葉を聞いて、沙織が璃子に詰め寄り、優太が頬に両手をあてて有名な絵画の〝叫び〟のようなポーズを取る。

「送ってもらってないの？　そのへんに放置された？」
「水上さん、まさか課長にも見捨てられて野宿したとか!?」

　ふたりの言葉に璃子は思わず苦笑した。

（そうか、課長はそんなふうに冷たい人だと思われてるんだ）

　達樹の名誉のため、それから変な誤解を招かないため、璃子は達樹と朝食を食べた後のことだけをはしょって伝える。

「家までちゃんと送ってくれたよ」

　それも車で。『困ったことがあればいつでも相談しろ』とまで言ってくれた。とはいえ、いくらなんでも上司の部屋に居候させてもらうわけにもいかないので、璃子は丁寧に礼を述べるにとどめた。

　璃子の返事を聞いて、沙織がホッとしたように言う。

「そっか、よかった」

　けれど、すぐに表情を曇らせる。

「日曜日はどうしてたの？」
「んー、不動産屋さんに行ったりしてた。啓一に『できるだけ早いうちに出て行ってくれ』って言われてるしね……」