フキゲン課長の溺愛事情
「いい物件あった?」
「ううん。会社に近くていいなぁって思ったマンションは、入居できるのが二週間先だったの。だから、もう少し探してみるつもり」
「そっかぁ……。彼氏名義で借りてるとこういうときややこしいんだね……」

 沙織がため息をついた。彼女も彼氏の家に転がり込んでいる状態だ。

「沙織は大丈夫だよ。いざとなっても実家が近いでしょ」
「わ、それ、なんか不吉な言い方」
「あーあ、実家から離れて就職すると、こういうとき苦労するんだなぁ」
「実家と言えば、どうするの? 同棲する前に、お互いの親に挨拶に行ったんでしょ?」

 沙織に言われて、璃子は肩を落とした。

 互いの両親に、はっきりと結婚を前提に、と言ったわけではなかったが、どちらの両親もきっとそれを前提に同棲するものだと考えたはずだ。

「しばらくは冷静に話せそうにないから……私の生活と気持ちが落ち着いてからにする」
「じゃあ、できるだけ早く新しい部屋を見つけなきゃ、だね」

 沙織の言葉に、璃子は下唇を噛んだ。

「やっぱり啓一はもう私のところには帰ってきてくれないのよね……?」

 未練がましい言葉がつい口をついて出てきた。

「璃子……」
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