フキゲン課長の溺愛事情
「いつも? 私、和田さんの気に障るようなこと、なにか言った?」
「どうせ陰で言ってるんでしょ? 私の翻訳が間違ってる、とか」
「言ってないわよ、そんなこと」
「じゃあ、どうして私が訳した会社のホームページの和訳を勝手に変えるのよ!」
「えー……?」

 思い当たる節がなく、璃子は眉を寄せた。そんな彼女を見て、友紀奈が腹立たしげに言う。

「一ヵ月前も! 先週だってそうだった! 〝二酸化炭素の排出を抑え、家庭・工場からの排水を浄化して再利用することで、集落から出る廃棄物を無駄にせずに農業・工場・その他の産業に活用する〟って私が訳したのに、あんた、勝手に変えたでしょ! 忘れたとは言わせないわ! 私はね、アメリカの大学を卒業したの! それに、OSK繊維開発に派遣される前は、もっと大きな企業で社内翻訳者をしてた! あんたなんかに勝手に訳文を弄(いじ)られるのはプライドが許さないのよ!」

(あー、あれか)

 璃子はできるだけ穏やかな声で言う。

「〝家庭・工場からの〟は〝排水〟だけじゃなくて、〝二酸化炭素〟にもかかってるの。だから、順番を変えて〝家庭・工場からの二酸化炭素の排出を抑え、排水を浄化して再利用することで〟にしただけ。高井田課長は『〝家庭・工場からの二酸化炭素の排出を抑え、それらからの排水を浄化して再利用することで〟でもいいかも』っておっしゃってたけど、話し合って私の順番にしたの」
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