B級恋愛
あの時あんなことをしなければ―――
杏子は後悔していた。物凄く。ボイコット何てしなければよかった…と。
店員に気づかれないように何度目かのため息をつく。いつもならワクワクしながらメニューを見るのだが今はそんな気分になれない。
何で寄りによって―――
チラリと市川を見る。頬杖を付き音楽に耳を傾けているようだ。

「お決まりですか?」

店員に声をかけられて振り返る。この店の店長らしき男性が笑顔を向けている。

「カフェラテをチョコソース追加で…あとは…キッシュを2つください」

「畏まりました、キッシュを温めますので少々お待ちくださいね」

ガラスケースの中からキッシュを取りだしレンジに入れる。手際よく準備をしていく。

「お待たせ致しました。お飲み物は奥のカウンターからお出しします」

キッシュが2つのったトレーを持ち上げてカウンターに向かった。

「お待たせしました」

飲み物とキッシュ2つをのせたトレーをテーブルに置いて市川の前に座る。

「遅ぇよ、コーヒーが薄まる」

「申し訳ありません。小腹も空いたのでキッシュ買ってました。1つどうぞ」

杏子はキッシュを市川に差し出す。

「奢ってくれるのか」

「私だけ食べているわけにはいきませんから…いらないなら私が食べます」

「食う」

差し戻されたキッシュを取り上げ頬張る。甘いものが苦手な市川だがこれはフォークが進む。一口大に切っては何度も口に頬張っていく。

「市川さん、なんでここでコーヒーを飲もうなんて思ったんです?」

杏子もキッシュを頬張り市川に言う。別にここじゃなくてもコーヒーは飲めるし市川の家の近くにも喫茶店はあるだろうと思っている。
「理由なんてない。言う必要もねぇだろ?」

たしかにそうだ。どこでどうしようが市川の勝手。杏子に干渉する義務も権利もない。

「それにオレがここに来ちゃいけないと言う理由はない。店に迷惑をかけて出禁になった覚えもない」

(ごもっともです…)

市川の言葉に心の中で呟く。

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