B級恋愛
ふと携帯の時間を見る。あれから時間は大分経っていた。書くことに夢中になっていたようだ。妹夫婦ももう帰った頃だろう。携帯を仕舞い席を立とうとした。

「よぉ。こんな所で会うとはな」

―――――!

意外な人物がそこにいた。

「こんにちわ。市川さんこんな所まで出てくるんですね」

いつもの格好よりもラフに見える。とはいうが市川はいつもラフだ。

「電気屋に用があってな。コーヒーが飲みたくて寄ってみた」

手にしたばかりのアイスコーヒーをテーブルに置いて杏子の前に座る。

「そうですか。では私はか―――」

「待てよ、付き合え。業務命令だ」

なっ―――

最低な上司だ。仕事以外で“業務命令”っていう言葉を使うなどと卑怯にも程がある。

「嫌です。仕事以外で―――」

「この前の料金、耳をそろえて払ってくれても良いんだけど?」

――――――…っ!

余裕綽々の笑みを浮かべられて何も返せない。狡いとさえ思う。そんなお金払えない。

「―――――っかりました」

「聞こえない、何て?」

「わかりました、ご一緒させていただきます」

「最初っからそう言えばいいんだ」

市川はこう返して満足げな笑みを浮かべる。

「―――何か買ってきます」

杏子はサイフを取り出してカウンターに向かった。
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