ひぐらしの唄
第四章
8月の半ば若菜の調子も良く親父から外出許可が降りたので若菜が1度行ってみたいと言った海に行った。
「わーすごい、風が気持ち良い」
想像以上にはしゃいでる。
白いワンピースに白のつばひろの広い帽子。肌が白いから尚目立つ。
「あんまりはしゃぐとこけちゃうぞ」
「きゃ……」
「そら見たことか、あぶないよ」
相変わらず、冷たく、細い身体。
周りから心にもない声がー
「あの娘、見てみろよ、幽霊みたいだぜ、良くあんな女と付き合うな」
「俺なら幽霊みたいな女とはつきあわなあいな」
若菜が帽子で顔を隠した。身体が震えている、泣いている?
「あの……若菜?戻るか?」
「ごめんなさい、私のわがままに付き合ってくれて、もういいから、もう……」
とっさに若菜をやさしく抱きしめた。
「あ……蒼くん?その……」
若菜の優しい香りが俺を刺激する。
さらにやさしく抱きしめた。
若菜の鼓動が伝わってくるー
「俺は若菜が……親父が言っているからじゃない、これは俺の意思で若菜と海に来たかったんだ、だから、悲しい顔すんな、若菜が悲しいと俺も悲しい、だから笑って欲しい……」
「蒼くん、ありがとう」
そっと若菜も抱き返してくれた。
「若菜……」
「なに……?」
無意識にやさしく若菜の唇に自分の唇を重ねた。
それは柔らかく、甘いー
「俺は若菜が好きだ、これからもずっと若菜といたい」
首にかけていたサファイアのリングを若菜の指にはめた。
「蒼くん、あの……これって」
「母さんの形見の指輪。親父からもらった物だって」
それは俺と母さんと同じ瞳の色……
「だ……駄目だよ、お母さんの形見を私にだなんて……」
「若菜に……お前に受け取って欲しい……さっきも言ったろ?好きだって」
「でも……私……」
もう一度若菜にキスをする。
「いつか若菜の病気が治ったら一緒になろう、これからもずっと……」
「蒼くん……いいの?こんな私で……」
「お前じゃなきゃダメなんだ、若菜が俺を変えてくれた、大嫌いな瞳の色を若菜は大好きだと言ってくれた、ただ、それだけじゃない、もっとー」
もう嫌なんだ、大切な人を失うのはー
「蒼くん……!」
若菜が泣きながら強く俺を抱き締めてくれた。
俺はこの日を決して忘れない、彼女に告白したことを、好きになったことを……
優しい甘い唇のこともー
夕日が紅く染まっていた。
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