無愛想で糖度高めなカレの愛
まだ階段にいるかもしれないと、そちらに向かおうとしてドアを開けた瞬間、ドキリと心臓が波打った。

私の目に飛び込んできたのは、並んで歩くふたりの男女の後ろ姿──。

夕浬くんと、忘年会の時に彼の隣に寄り添って話していた、広報課の女性社員だ。ふんわりしたボブの髪の毛と、少しだけ見えた横顔ですぐにわかった。


今さっき、広報課に入ってきたのは彼女だったの? 名前はたしか、安達(アダチ)さん、だったよね。

何故か咄嗟にドアを引き、少しだけ開けたままにして様子を伺う。胸がざわめく……。


「忘れ物取りに来たら、河瀬さんがいたからびっくりしました!」


安達さんのよく通る声が廊下に響き渡る。

嬉しそうにする彼女。夕浬くんの表情は見えないけれど、「そうですか」と感情のこもらない声で返した。


「私の方が後輩なんだから、敬語使わないでくださいって言ったじゃないですか」

「これは癖みたいなものなので仕方ないです」

「え~」


あははっ、と楽しそうに笑う彼女の声と、ふたりの姿が階段に消えていく。

彼女に先を越されちゃったか……。夕浬くんが出ていく前に、やっぱり引き止めていればよかった。

タイミングの合わなさに、私はまたため息をこぼした。

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