無愛想で糖度高めなカレの愛
「でも、なかなか引き下がってくれなくて。軽く押し問答してたら椅子の脚に彼女がつまづいて、俺の方に倒れてきたんで咄嗟に受け止めたんです」


事の一部始終を聞いて、納得した私は安堵の息を吐いた。

安達さんがつまづいたのは計算ではないのか、ほんのちょっとだけ訝しく思わないこともない……けど、それは私の胸の中だけに留めておこう。うん。


「そっかぁ、アクシデントだったのね」

「信じてくれますか?」


不安そうに、少し眉を下げて問う夕浬くんはちょっぴり可愛い。

焦ったり、しょんぼりしたり。普段は絶対に表すことがない彼の姿を見られて、胸がキュンとするのを感じつつ、しっかりと頷く。


「うん。避けられない突然のハグは、私もついこの間体験したからね」


恵次に抱きしめられてしまったあの時のことを言っているのだと、夕浬くんもすぐに気付いたらしい。目を見合わせると、お互いにぷっと吹き出した。

その時、私達の間をぴゅうっと北風が吹き、気にならなかった凍えるような寒さを実感させられる。

肩をすくめる私に、夕浬くんは柔らかくなった表情で言う。


「中に入って話しましょう。今日は俺しかいないんで」

「……安達さんは?」


あの後、彼女がどうしたのか気になって聞くと、夕浬くんの顔には徐々に無表情が戻ってくる。

< 188 / 215 >

この作品をシェア

pagetop