無愛想で糖度高めなカレの愛
「明穂さんは嫌? 俺と一緒にいるの」


小首をかしげて問い掛ける彼に、思わずキュンとしてしまう。

ちょっと悲しそうな目をするところも、初めて見るし可愛いし。

突然名前で呼ぶのも反則だよ……。


母性本能みたいなものがむくむくと芽を出し、拒否する気はすっかりなくさせられていた。

というか、付き合ってもいない男性の部屋にお邪魔するということに抵抗があっただけで、最初から河瀬くんのことが嫌だなんて、少しも思っていない。


「……や、じゃない」


気恥ずかしくて俯いた私の視界に、すっと伸ばされた手が映り込む。


「よかった。じゃ行きましょう」


顔を上げると、河瀬くんは穏やかな笑みを浮かべていて、私は自然と自分の手を彼のそれに重ねた。



……河瀬くんの思考も行動も、やっぱり謎が多い。

仕事上は無口で無愛想、研究以外には無関心、という無の三拍子が揃ってしまっているけれど。

ふたりきりになれば甘い言葉を掛けてくるし、ちょっぴり強引だし……しっかりと“男”を感じさせる。


河瀬 夕浬というチョコレートがあるなら、その中身のガナッシュは危険な香りがするに違いない。

そんなバカなことを思いながら、私は彼に手を引かれてオフィスを後にした。




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