流れ星スペシャル
「アズ?」
ドアが開き、中から身を乗り出して、男が声をかけてきた。
「あ」
ホストバージョンのトシくんだった。
「乗っていき。送ったるわ」
さっきのスーツの上に黒いトレンチコートを羽織っていて、さらに大人っぽく見える。
「ええわ。ここにチャリ置いてったら、明日困るし」
タクシーの横で自転車にまたがったまま、首を横に振った。
するとトシくんは、なんと精算を済ませてタクシーを降りてくる。
うわ……。
さっきの今やし、なんか気まずいな。一方的に……。
「別に……降りてくれんでもよかったのに。ひとりでスイスイッて走るから、そのほうが早いもん」
ブロック感丸出しで、そう言った。
「でも怖いやろ? えらい遅いやん。店忙しかったん?」
向こうは普段と全然変わらない口調。
「別に……。今日はうるるんと、ちょっと」
なぜかトシくんの唇に目が行った。
「あー、ふたりで女子会?」
「まぁ、そんなもん」
トシくんは、わたしの自転車のハンドルに手をかけてくる。
「よっしゃ、オレが漕いだる。アズは後ろに乗れ」
間近に来たトシくんは、お酒の匂いと男性用のコロンの香りがした。