Memories of Fire
「つまり、クラウスのことが好きなのでしょう?」
「馬鹿なことを言わないで、マリー。私はただ、あの澄ました顔が嫌いなだけよ」

 マリーの呆れた表情に、ソフィーが言い返す。

「でもさー、嫌よ嫌よも好きのうちって言うし」
「貴方までそんなことを言って……」

 マリーの隣に座っていたエルマーまでもがどこかで聞いた台詞を言うので、ソフィーは大きく首を横に振った。

「でも、結局、ソフィー姉様はクラウスが会いに来なくなったのが気に食わないのでしょう? それって寂しいってことじゃない」

 中庭での出来事から一週間。クラウスは本当に城へ来なくなった。否、仕事では来ているようだが、ソフィーに会いに来るのをやめたのだ。

 確かにソフィーは話がないのなら来るなと言った。だが、本当にそうなると……またもやもやが大きくなって、ソフィーはとうとう妹のマリーと従兄弟のエルマーに愚痴を吐き出したのだ。

「押して引く作戦か。俺にはできないなぁ。マリーに会えなきゃ寂しくて耐えられないよ」

 エルマーはわざとらしく眉を下げて、隣に座るマリーの肩に頭を載せる。ソフィーはそんな二人をテーブルの向かい側から見つめ、顔を顰めた。

 押して引く……? 

「押された記憶はないわ」
「それって押されたいってこと?」

 途端、エルマーの表情がぱぁっと明るくなり、ソフィーは「違うわよ!」と強く否定する。

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