Memories of Fire
(何よ……)

 自分たちの結婚式のすぐ後に結婚すると意気込むマリーとエルマーは、ドレスも指輪も当然のように二人で話し合って決めている。婚約式や結婚式の段取りは使用人たちがほとんどを担っているけれど、それにだっていろいろと注文をつけているみたいだった。

 本来、婚約者なら……そうやって一緒に記念日となる日を楽しみにするのではないのか。マリーとエルマーはいつも一緒にいて幸せそうなのに、どうしてクラウスは自分を放っておくのだ。

 いや、ソフィーとクラウスはマリーとエルマーとは違って相思相愛ではない。そもそも、クラウスがソフィーを好いているというのすら、怪しいではないか。

 普通、好きな相手には、エルマーみたいに暑苦しいくらいくっついてくるものだと思っていたから――否、それはソフィーが嫌だと言ったのだ。でも、だからといってあんな潔く諦めるなんて男として……

 ソフィーの中で、ぐるぐると正反対の感情が渦巻く。

 結局、ソフィーはクラウスが“押して”くれるのを待っている。

 悔しい。どうして……ソフィーと結婚したかったのは、クラウスのはずなのに。どうしてソフィーがこんなにヤキモキさせられなければいけないのだ。

 好きだと言いながら、ソフィーを放っておくクラウスが恨めしい。どうしてソフィーの複雑な心をわかってくれないのか――八つ当たりだとは理解しつつも、ソフィーのイライラは爆発寸前だった。

 そんな穏やかでないソフィーの心とは裏腹に、婚約式は滞りなく進む。

 お互いの両親の前で婚約指輪を交換し、正式に婚約が成立。祝いのパーティも和やかに終わりを迎えた。

 クラウスは控え室として宛がわれた客室までソフィーをエスコートしてくれる。
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