Memories of Fire
「では、ソフィー。また結婚式にお会いしましょう」

 部屋に入ってすぐ、クラウスはそう挨拶をして踵を返す。

「か、帰るつもりなの?」

 まさか、婚約式当日までこんなにあっさり帰ろうとするなんて……

「そうですが……何か?」

 クラウスはソフィーを振り返り小首を傾げた。その瞬間、今まで心の中に溜め込んでいたいろんな感情が弾けた気がした。

「貴方、私との結婚は恋愛の延長だって言っていたのは嘘だったの?」
「嘘ではありませんよ。ソフィーが必要最低限しか会いたくないと言うので、貴女の言う通りにしたほうが良いかと思っただけで。好きだから、貴女の嫌がることはしたくないのです」
「な……何よ……っ」

 こみ上げて来たものをなんとか呑み込んで、ソフィーは何度も瞬きをする。

 会いたくないと言ったのは確かにソフィーだ。好きな人が嫌がることをしないというのも、きちんと筋が通っているし、クラウスは何一つ間違っていない。でも……だからこそ、それが余計にソフィーを苛立たせる。

「人のこと、じろじろ見ていたくせに……っ」

 あんなに観察していたくせに、どうしてわかってくれないのだ。

「私のことを何もわからないのに、好きだなんて言って……」
「わかりますよ。ですが、私が貴女の素直なお気持ちを汲み取ったとして、貴女はそれを受け入れてくださるのですか?」
「受け入れるって何よ……」

 彼女はぐすっと鼻を啜って潤んだ目でクラウスを睨む。
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