Memories of Fire
「だから! お前の胸が腕に当たっていた! 俺がお前の部屋に来ないのは、来たら一緒に寝ることになるからだろう!」

 そう一気に言うと、何かが吹っ切れたのか、ジークベルトは早口で喋り出した。

「お前が隣に寝ているのに手を出さない自信がないし、実際、城に泊まるときは必ずお前を抱いている。でも、お前はこんな細い身体をしていて、俺はいつもお前が壊れてしまうんじゃないかって怖いんだよ! 本当は一回じゃ足りないときだってあるんだぞ! 結婚したら毎日一緒に寝るだろうに、お前に触れられないなんて我慢できない!」

 次から次へとジークベルトの口から出てくる意外な理由に、ハンナの頬がかぁっと熱くなる。一回じゃ足りない、我慢できない……なんて、ハンナの思いもよらないジークベルトの本音だった。彼は、そういうことに対して淡白なのだと思っていたのだ。

「それに、俺はお前との子供も欲しいんだ。こんなに小さくて細い身体で、お前が出産に耐えられるのかも心配で――」
「ちょ、ちょっと。待って、ジーク。お、落ち着いてよ」

 まったく止まりそうにないジークベルトの背を、ポンポンと軽く叩く。すると、彼はハンナを抱きしめていた腕の力を緩めた。

 ハンナはジークベルトの胸に両手をつき、彼を見上げる。

 ジークベルトは目元を赤らめて、手の甲を口に当てて照れた表情を浮かべた。

「……格好悪いだろう。こんな、自分の欲を満たしたくて、お前にたくさん食べさせようとしていたなんて……言えるわけない」

 今まで見たこともないジークベルトの真っ赤な顔。羞恥に染まる表情は、幼くて可愛く見える。ハンナも予想外のジークベルトの反応に、顔だけではなく全身が火照って恥ずかしい。
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