ヴァイス・プレジデント番外編
「ヤマトが社長になるの、見届けてきゃいいのに」
「そんな、いつの話かもわからないのに」
私は案外すんなり転職先が決まり、結果的に延大さんの結婚より先に、今の会社を辞めることになった。
最終出社日、わざわざ私のフロアまで挨拶に来てくれた城さんと裏口を出ると、彼がからからと笑う。
「すぐだよ。俺も、数年で別の会社行こうと思ってたんだけどなー」
「面白くなっちゃいました?」
「なっちゃったよ。ヤマトみたいのって、世話好きにとっちゃこたえらんねえよな。すずちゃんならわかるだろ?」
別に自分を世話好きと思ったことはないけれど、わかる。
どこかお世話が必要な余地が残っているくせに、頼もしくて、誇らしくて。
あまりの頑固さに、あきらめたくなったりもするけれど、気づけばいつの間にか、成長してくれていたりする。
「見たくなっちまうよなー」
もう秋めいてきた高い空を見あげて、城さんが気持ちよさそうにつぶやいた。
何をですか、と尋ねてみると。
両手をポケットに入れて立つ、綺麗な眼鏡の顔が、心底楽しそうに笑う。
「あいつが、どこまで行くのかさ」
そこに、あーここだと思った、とのんきな声がかかって、社屋からヤマトさんが姿を現した。
「社内で会うのも、最後だもんね」
邪魔だからあっち行って、と城さんを手で追いやって、にこっと私に笑いかける。
私も笑って、この職場を離れるさみしさを改めて感じ、数年前に秘書室を出た時のことを思い出した。
さみしくて、いいんだ。
それは、楽しかった証拠だから。
それを胸に、進んでいくんだ。
これから私を待つ、いろんなことも。
きっと楽しいに決まってるんだから。
が。