ヴァイス・プレジデント番外編
「すずちゃん、スケジュール管理、得意じゃなかったっけ」
「ちょっとした、前倒しです…」
会社を変わった直後、私にはなんと、子供ができた。
婚約祝いにと遊びに来てくれた城さんが、あきれたようにヤマトさんと私をじろじろ見るのに、いたたまれない。
最初に伝えた時のヤマトさんの動揺は、ものすごかった。
お互い、心当たりがまったくなかったからだ。
ソファで新聞を読んでいたヤマトさんは、えっ? と言ったまま、しばらく固まった。
…ヤマトさん、と声をかけると、一瞬で解凍されたように動きだし、うろたえた声を出した。
「え、あれっ、な、なんで? ごめん、俺、なんか忘れたこと、あったっけ」
「いえ、ないと思います」
でも100%じゃないって、こういう意味なんだと思います。
できたこと自体にではなく、物事が計画どおりにいかなかったことになんとなくへこんで、うなだれて言うと。
ヤマトさんはかなり長いこと、ぽかんと私を見て。
そのあと、見たこともないくらい嬉しそうに笑って。
私を、息がとまるくらい抱きしめた。
そして、はっと気がついたように。
結婚しなきゃダメじゃん、と言った。
「会社は、大丈夫なの?」
「迷惑をかけることにはなりますが、上司が理解のある人で…」
このままいけば、入社して半年ちょっとで産休に入ることになる。
継続勤務期間が短いせいで、産休というものは取得できないため、休職扱いになる。
そういう手続き上の心苦しさもあれば、純粋に、何やってんだよお前、という周囲の目が正直本気で不安でもあったんだけど。
中堅の出版社という新しい職場は、みんなおおらかというかなんというかで、非難めいた声はいっさいなく。
なるべく仕事覚えてから休み入れるといいね、という前向きな態度で受けいれてくれて、腰が抜けるほど安心した。
「サルの繁殖力だなあ」
「3年やってんだぞ。言うほどじゃないだろ」
「ヤマトさん、言葉選んでください…」
とりあえず一緒に住むことにしたヤマトさんの部屋で、城さんが持ってきてくれたノンアルコールのシャンパンを開ける。