ヴァイス・プレジデント番外編
「で、いつ入籍すんの?」
「年内には。ほんとは兄貴たちと、合同で式とかできたら面白いねって言ってたんだけど、すずもこのタイミングだし」
「腹大きくたって、いいじゃん」
「いや、向こうも二度目だからさ。あんま大々的にはやらないみたい」
「延大さんたちは、身内だけでするんですよね、今度は国内で」
「久良子さんの花嫁姿を見ずには、済ませらんないもんなー、兄貴も」
あはは、と笑うヤマトさんを、お前もだろ、と城さんが冷やかした。
まあね、と微笑むヤマトさんは、私の体調が落ち着いたらささやかに式を挙げようねと言ってくれている。
乾杯、とグラスを掲げて、爽やかな泡がはじけるのを感じながら口をつけた。
軽い吐き気と貧血が続く中、体調に振り回されていた私は、仲よくおしゃべりするふたりを見ているうちに眠気に襲われる。
身体をかばいながら生活するのは、やっぱりくたびれるなあ、と思いながらソファに頭をもたせているうちに、記憶がなくなった。
「おーい、薫、帰ったよ」
「えっ!」
跳ね起きようとした私を、おいおい、と慌ててヤマトさんがとめる。
肩から何かがすべり落ちて、見たら、かけてくれたらしいブランケットだった。
「ごめんなさい、私、何もしないで…」
「全然いいよ、薫もなんでもできるし。一緒に料理までしちゃった」
私、どれだけぐっすり寝てたの。
見ればダイニングテーブルの上に、ふたりがつくって食べた残りとおぼしき料理が載っている。
ヤマトさんが私の隣に腰を下ろして、肩を抱いてくれる。
まだ眠気のさめきらない私は、その肩に頭を乗せて、柔らかい温かさを味わった。
あーあ。
本当に、思いどおりにいかないことって、多すぎる。
私、もしかして、この人生において、何ひとつ自分の思ったタイミングで進められてないんじゃない?
思わずため息をつくと、ヤマトさんが私の肩をゆすって笑った。
「すずの考えてること、わかるよ」
「うしろ向いてるわけじゃ、ありませんからね」