ヴァイス・プレジデント番外編
「同じ部だったんなら、わかってもよさそうなものなのに」
「名前どころか性別まで違って、思い出せってほうが無理だろ!」
まあ、それもそうだ。
顔だけを記憶していた延大さんのほうが早く答えにたどり着いたというのも、わかる。
ごめんなさい、と素直に謝ると、ヤマトさんがため息をついた。
「俺、そんなに信用ない?」
「忘れちゃうほど適当だったのかって、ショックだったんです」
「全員ちゃんと覚えてるよって言っても、へそ曲げるくせに」
「あたり前です」
どうしろって言うんだよ、とすねた声。
こっちの台詞だ。
どうしろって言うんですか。
要するに、あなたが非常識なほど見境なしだったのが悪いんですよ。
ヤマトさんが引き上げてくれた布団の中で、身を寄せる。
温かい身体にくっつくと、頼もしい腕が優しく抱きしめてくれる。
私のお腹を気にしてか、妙にそっとした仕草なのに、つい笑いが漏れた。
「なにがおかしいの」
「いろいろあるなあと思って」
ヤマトさんの秘書をしはじめた頃、こんな未来なんて想像もできなかった。
紆余曲折ののちに延大さんと久良子さんは結ばれ、俺たちも結婚しようねとヤマトさんは無邪気に笑い、驚いたことに入籍より早く私のお腹には子供が宿り、その少し前、私は会社を変わっている。
「楽しい?」
「楽しいですよ、思うようにいかないことも多いけど」
でもまあ、きっと人生ってこういうものなのだ。
流され流され、思いもよらないところに漂着して、けどどんな場所でも頑張る意味はある。
人は大河の一滴、って誰の言葉だったっけ。
「あ、それいいね、大河」
「え?」
名前、と私のお腹を見下ろして言う。
大河か。
いいかも。
雄大でおおらかで、ヤマトさんのイメージにも重なる。