ヴァイス・プレジデント番外編
あら。
この人が噂の。
「親父とヤマトがお世話になってます。長男の延大です、よろしく」
ある日、経営コンサルタントとしてこの会社に関わることになった会長のご長男が、秘書室に挨拶にやってきた。
通俗的な表現をするなら"日本一の大学"を出て、家のしきたりどおりにこのソフトウェア制作会社で一年間学び、その後アメリカへ留学し、トップクラスのビジネススクールでMBAホルダーとなって帰ってきたのは有名な話。
そこから数年間、コンサルティング会社で修行を積み、この4月から非常勤で我が社と契約を結んだ。
確か、今年で30歳。
私の4年上。
「ヤマトさんのお兄さんとしては、意外なタイプだったわ」
副社長以下、すべての役員を受け持つ暁が、珍しく業務中に自分から口を開いた。
仕事上、ソフトウェア1部長である堤家次男のヤマトさんとも交流があるため、よけいに長男とのギャップに驚いたんだろう。
「私も、会長の息子さんとしては驚きがあったわ。まあでも、それはヤマトさんも同じね」
「一番目と二番目があれだと、末っ子がどんなのか気になるね」
社長づきの和華も、きりりとした背筋を崩さないまま無駄話に加わってくる。
そうね、三男も早く見てみたい。
でもまだ高校生か、大学に入ったばかりのはずだから、入社してくるのは当分先ね。
あら、その頃は私、もう30代だわ。
なんだか、考えられない。
他のふたりと話しながらも私の頭にあったのは、さっき会ったばかりの長男だった。
どうもどうも、なんて言いながら秘書室の3人全員と握手をして回った彼は、私の時だけ少しだけ長く手を握り、そうとわからないくらい一瞬、片目をつぶってみせた。
気に入ってくれたのね。
愉快な人。
その彼から、「食事に行こうよ」と社内のチャットシステムを使って誘いが来たのは、初対面から間もなくのことだった。
システム部門でログを管理されているというのに、堂々としたものねえ、とあきれる。
まあ確かに、悪いことをしているわけじゃないんだから、いいんだけれど。
この人が噂の。
「親父とヤマトがお世話になってます。長男の延大です、よろしく」
ある日、経営コンサルタントとしてこの会社に関わることになった会長のご長男が、秘書室に挨拶にやってきた。
通俗的な表現をするなら"日本一の大学"を出て、家のしきたりどおりにこのソフトウェア制作会社で一年間学び、その後アメリカへ留学し、トップクラスのビジネススクールでMBAホルダーとなって帰ってきたのは有名な話。
そこから数年間、コンサルティング会社で修行を積み、この4月から非常勤で我が社と契約を結んだ。
確か、今年で30歳。
私の4年上。
「ヤマトさんのお兄さんとしては、意外なタイプだったわ」
副社長以下、すべての役員を受け持つ暁が、珍しく業務中に自分から口を開いた。
仕事上、ソフトウェア1部長である堤家次男のヤマトさんとも交流があるため、よけいに長男とのギャップに驚いたんだろう。
「私も、会長の息子さんとしては驚きがあったわ。まあでも、それはヤマトさんも同じね」
「一番目と二番目があれだと、末っ子がどんなのか気になるね」
社長づきの和華も、きりりとした背筋を崩さないまま無駄話に加わってくる。
そうね、三男も早く見てみたい。
でもまだ高校生か、大学に入ったばかりのはずだから、入社してくるのは当分先ね。
あら、その頃は私、もう30代だわ。
なんだか、考えられない。
他のふたりと話しながらも私の頭にあったのは、さっき会ったばかりの長男だった。
どうもどうも、なんて言いながら秘書室の3人全員と握手をして回った彼は、私の時だけ少しだけ長く手を握り、そうとわからないくらい一瞬、片目をつぶってみせた。
気に入ってくれたのね。
愉快な人。
その彼から、「食事に行こうよ」と社内のチャットシステムを使って誘いが来たのは、初対面から間もなくのことだった。
システム部門でログを管理されているというのに、堂々としたものねえ、とあきれる。
まあ確かに、悪いことをしているわけじゃないんだから、いいんだけれど。