ヴァイス・プレジデント番外編
「ここまで我慢したんだから、もうちょっと耐えてみようか、みたいな」
自分いじめ? と首をひねる彼があまりに可愛くて、おかしくて、その唇にキスをする。
延大さんは驚いたのか、目を丸くして、ちょっと困ったように視線をうろうろさせると、あのさ、と小さく言った。
「やっぱり、何か、喋って」
どこか心細そうなその声に、笑う。
改まってそんなことを言われても、いったい何を話せばいいのやら。
私はちょっと考えて、いまだに肩にかけていたバッグを床に落とすと、ようやくこの体勢が叶ったと思いながら彼の首に腕を回した。
しばらく口を閉ざしていたので、喉慣らしの意味で、延大さん、と呼んでみる。
ん? と優しく微笑んで腰に腕を回してくれる。
「今度は、私に我慢させるおつもり?」
ちょっとした冗談のつもりで言ったのだけれど。
延大さんが軽く息を飲んだのが、ぴったりとくっついた身体から伝わってきて、冗談としてはたちが悪すぎたと反省する間もなく、唇が重なってきた。
一瞬、舌を絡めとると、唇はすぐに首筋へと移動する。
今度は私が息を飲む番だった。
それを感じとったのか、耳たぶを甘く噛みながら、延大さんが少し笑った気がした。
なんてことはない。
本音だったのだ。
私も、ずっと我慢していた。
この人に抱きしめてほしくて。
臆病なくせにプライドだけは高い私が、はりめぐらしている壁を、越えてきてほしくて。
延大さんは壁の向こうで、長いこと立ち止まって、「どうして壁をつくってるの」と問いかけ続けてくれた。
そして私が驚かないよう、何度もノックをくり返した上で、今日、ひょいとそれを乗り越えてくれたのだ。