ヴァイス・プレジデント番外編

「ここまで我慢したんだから、もうちょっと耐えてみようか、みたいな」



自分いじめ? と首をひねる彼があまりに可愛くて、おかしくて、その唇にキスをする。

延大さんは驚いたのか、目を丸くして、ちょっと困ったように視線をうろうろさせると、あのさ、と小さく言った。



「やっぱり、何か、喋って」



どこか心細そうなその声に、笑う。

改まってそんなことを言われても、いったい何を話せばいいのやら。

私はちょっと考えて、いまだに肩にかけていたバッグを床に落とすと、ようやくこの体勢が叶ったと思いながら彼の首に腕を回した。


しばらく口を閉ざしていたので、喉慣らしの意味で、延大さん、と呼んでみる。

ん? と優しく微笑んで腰に腕を回してくれる。



「今度は、私に我慢させるおつもり?」



ちょっとした冗談のつもりで言ったのだけれど。

延大さんが軽く息を飲んだのが、ぴったりとくっついた身体から伝わってきて、冗談としてはたちが悪すぎたと反省する間もなく、唇が重なってきた。


一瞬、舌を絡めとると、唇はすぐに首筋へと移動する。

今度は私が息を飲む番だった。

それを感じとったのか、耳たぶを甘く噛みながら、延大さんが少し笑った気がした。


なんてことはない。

本音だったのだ。


私も、ずっと我慢していた。

この人に抱きしめてほしくて。

臆病なくせにプライドだけは高い私が、はりめぐらしている壁を、越えてきてほしくて。


延大さんは壁の向こうで、長いこと立ち止まって、「どうして壁をつくってるの」と問いかけ続けてくれた。

そして私が驚かないよう、何度もノックをくり返した上で、今日、ひょいとそれを乗り越えてくれたのだ。

< 33 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop