ヴァイス・プレジデント番外編
性急で強引なわりに、キス自体は礼儀正しく、むしろ遠慮がちといってもいいくらいだった。

私の腕をきつくつかんでいた手は、いつの間にか耳元へと回り、長く伸ばした髪を優しく梳きながら、何度も柔らかく唇を重ねてくれる。


アルコールも手伝って、私はどこか、ふらふらと足元がおぼつかないような心持ちだった。

ふと唇が離れて、目をのぞきこまれる。

特に責めているつもりはなかったけれど、やっぱりあまりに唐突だったので、少しの驚きとあきれが顔に出ていたんだろう。

延大さんは、ちょっと照れくさそうに微笑むと。



「…嫌じゃないよね?」



少し不安そうに、そう訊いてきた。


その正直さに、私は声を出して笑った。

うなずくと、延大さんがまたキスをくれる。


綺麗な部屋だよ、と言いながら、手を引いて廊下を歩いたくせに、肝心の室内なんて確かめる暇も与えてくれず、入るなりまた私の唇をふさいだ。

私を抱きしめる腕の力が、痛いくらいで。

ちょっと緩めてほしくて、身動きのとれない中、かろうじて動く手で胸を叩くけれど、無視された。


首のうしろに回った手が、私の髪を優しくつかむ。

上を向いたと同時に、少し開いた唇から深いキスが来る。


彼がグラスで頼んでいた、赤ワインの味がする。

遠慮はもうどこにもなくて、ひたすらかき抱かれて貪られるのに、私も夢中で応じた。


ふいに、少しきつく唇を噛まれたと思ったら、ふっと拘束が解ける。

思わず大きく息をつく私を見おろしながら、両手でゆるく髪をかき回してくれるのに、ざわりと肌が粟立つのを感じた。

間近に見える瞳は、男の人らしい昂ぶりに濡れていて、その肩はまだ、熱い吐息に揺れている。



「もったいなくなってきちゃった」



私のグロスが移ったらしい唇を、何気ない仕草でなめながら、延大さんが言う。

どういうこと? と目で問うと、彼がふてくされたように眉根を寄せた。

< 32 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop