ヴァイス・プレジデント番外編
いったいなんの話かと、私は思わず身を固くし、あいづちも打てなかった。

CEOが言葉を探すように、机の上で軽く組んだ両手の指を、トントンと動かす。



「あれが、君に…」



そこまで言うと、うまくまとまらないのか、言葉を切って、眉をしかめて机を見つめる。

つぶやくように「なんというか…」とつなぎの言葉を発したCEOに、私は面食らった。

彼のこんな物言いを、聞いたことがない。

常に整然と筋道だった発言をし、きっぱりと言い切る人なのに。


CEOはあきらめたのか、ふうと息をつくと、言葉を継ぐのをやめてしまった。

けれど私には、彼の言いたかったことがわかった。


CEOは父として、延大さんの背中を押したつもりだったのだ。

私と結婚しないのは、延大さんが煮えきらないせいだと思っていたんだろう。

だから延大さんが、私に対して一歩踏み出せるようなきっかけを与えた。

事実、彼は踏み出してくれた。


組んだ自分の手をじっと見つめるCEOを、たまらなく愛おしく感じる。

私たちの関係を知っていたことにも驚いたけれど、この人が息子の恋愛に、そんなふうに介入しようとしたことの、あまりの微笑ましさに笑いだしそうになった。

彼も結局は父親で、不器用で、情に満ちていて、純粋で、鋭くもあり、鈍くもある。



「申し訳ございません」

「いや、私こそ、余計なことをした」

「そんなこと」



私は首を振った。

あなたのなさったことは、正しいですわ。

彼はこれでようやく、進むべき道を歩きはじめたのだから。

CEOは、申し訳なさそうな、さみしそうな、なんともいえない複雑な表情で微笑んだ。



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