ヴァイス・プレジデント番外編
"急性腎不全による、多臓器不全"と診断書にはあった。

殴り書きしたようなその筆跡を見て、人ひとりの生が終わる原因は、こんな言葉にまとめられるのね、と妙なむなしさに襲われた。


もとからお酒好きだった父は、定年後に酒量が増え、晩年には昼間でも酒瓶を手放さないほどになっていたらしい。

私はそんなことはつゆ知らず、病気ひとつしない頑健な父のイメージのまま離れたところで暮らしていたので、危篤の連絡を母から受けた時は、心底驚いた。

自分に言い聞かせるように楽観的な連絡をよこした母だったけれど、私が病院へ着くまで父はもたず。

母の言葉を鵜呑みにして、翌日の面会時間を待ったりせず、本当によかったと思った。



「お母様は?」

「自室で休んでるわ。ずっとそうなの」

「久良子、痩せたんじゃない、大丈夫?」



暁も心配そうに私を見る。

父の好みで、木材をふんだんに使ったこの家は、建てて10年近くたった今でもふわりと木の香を漂わせている。

当初はこの鼻につく香りが苦手で、たまの帰省にも、寝つくのに苦労したほど。

けれど今ではすっかり気にならなくなり、逆に自分がこの匂いに染まっているのではという拭いきれない不安があった。



「大丈夫よ、仕事も続けてるし」

「延大さんのこと、聞いた?」



客間のソファに腰かけて、お持たせの羊羹を手元で切りながら、和華が唐突に言った。

あんまり久しぶりにその名前を聞いたので、一瞬なんのことか理解できなかった。

3つのお湯呑に緑茶を注ぎながら首を振ると、暁が言い足す。



「離婚されたんですって」



そう、と答える声が、震えていませんようにと願った。

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