ヴァイス・プレジデント番外編
「住まいじゃないんだがね…」
「失礼しました」
だって、いつ家に帰っているかわからないんですもの。
見違えた研究室に目を丸くしながらも、私の言いようにすねる教授に笑う。
私は職場に恵まれている。
教授が弟子と呼んで可愛がる学生さんたちも、みな熱意があって純粋で、可愛らしく。
他の研究室の秘書さんは、学生のアルバイトだったり、子供を持ったお母さんだったりと、バラエティに富んでいて飽きない。
四半期、半期、年度と常にタームを基準に生活が回っていた企業秘書時代と違って、時間の流れに区切り目のないここは、どこか世間から切り離されているようで、それはそれで居心地がよかった。
そんな矢先、父が死んだ。
* * *
「久良子が連絡よこさないから、こんな時期になっちゃったじゃない」
久しぶりに顔を合わせるなり、和華が私を叱責した。
ご霊前に供えてね、と菓子折りらしい箱を渡してくれる。
毎年、律儀に手書きの年賀状をくれる和華と暁に喪中葉書を出したのがきっかけで、連絡をもらったのだった。
私は父の他界後、母をひとりにしておくのが不安で、実家に戻って暮らしていた。
母はすっかり呆然自失の体で、何ひとつ自分からは行動しようとしない。
喪主を務めることすらできず、葬儀の手配も告別式の挨拶も私が代理で行った。
ぎすぎすした親戚も集まらざるを得ず、あまりに醜い会になりそうだったので、私は自分の知己は呼ばなかった。
死亡診断書も私が病院まで取りに行き、遺産の相続手続きのため実印をつくることに始まって、年金や保険の切り替え。
人の死は、悲しみや喪失感と一緒に、膨大な事務手続きを伴ってくる。