ヴァイス・プレジデント番外編
創立者のひとりである会長は、本当に素敵。

勤務の初日に挨拶をした時、私はもう、歓喜のあまり倒れるかと思った。



『本日より、専任秘書を務めさせていただきます、安杖(あんづえ)久良子と申します。よろしくお願いいたします』



私が頭を下げると、彼は礼儀正しく椅子から立ちあがり、机に軽く手をついて一礼を返した。

もう一度ゆったりと腰をかけてから、私を見上げて言う。



『秋田の方かな』

『あら…』

『多い苗字と、聞いたことがある』



さすがだわ。

初対面で私の出身地を当てられた人なんて、これまでにいない。



『最初に申し上げておこうかな。私は秘書を私物化するつもりはない。始業から就業までが、君の秘書としての時間だ』

『かしこまりました』



朝起こしたり、夜おつきあいしたりする必要はないってことね。

この会長なら、それもいいけど。



『人となりは、おいおいわかってもらえばいいことだ。よろしく頼むよ』

『こちらこそ、よろしくお願い申し上げます』



素敵、素敵。

背の高い、無駄のない身体に、しかつめらしい表情が染みついて消えなくなってしまったような顔。

鋭い瞳は、それでもその奥に、寛大な優しさをたたえている。

年月にみがかれた声は柔らかく、深く響くけれど、甘すぎず清潔。


お約束しますわ。

私、あなたの目となり、耳となり、手足となります。

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