ヴァイス・プレジデント番外編
どうしてどうして。
女は強い。
母を見ていて、そう実感した。
「今までごめんね、久良ちゃん」
一周忌という機会に、彼女なりに何か思うところがあったらしい。
延大さんと別れて家に戻った私を迎えたのは、憑き物が落ちたようにさばさばとした、若々しい母の笑顔だった。
私、生きることにしたわ。
そんなことを言いながら、もう冷茶の時期ね、などと微笑んで、ガラスのピッチャーを棚からとり出す。
湯冷ましをつくるのだろう、やかんを火にかけながら、鼻歌すら聞こえてきそうな勢いに、私はぽかんとするばかりだった。
母は美しく澄んだ冷茶をつくるのが昔から得意で、初夏になると、我が家の冷蔵庫には必ず綺麗な緑のピッチャーが入っていた。
今思えば、あの頃の母は、今の私よりずっと若かったのだ。
生きることにした、なんて、じゃあ、これまではどんなつもりだったのと言いたくなる台詞だけれど。
不思議と今の彼女には、ぴったりくる言葉で。
私は、そう、とごく自然に返していた。
「お父さんの夢を見たのよ」
「ごめんとか言ってたり、したの?」
「ううん、いつものとおり、ふんぞり返ってたわ」
何年ぶりかの母の料理を食べながら、ふたりで笑った。
「そうしたらもう、なんだかどうでもよくなっちゃって。あの人も結局ああして、家族に甘えてたのよね」
父と母は、確かに愛しあっていたんだろう。
夫婦のことは、他人にはわからない。
血のつながった娘にすら、完全にはわからない。