ヴァイス・プレジデント番外編

「よく会うんですか、暁と」

「たまに。競馬場でお会いしたこともあります」



暁が別の競馬新聞を買いに行っている間、和之さんに訊いてみた。

去年の春、私たちの会社を辞めて有名な広告代理店に転職した彼は、一年以上会っていなかったけれど、その爽やかな風貌も、理知的で礼儀正しい話し方も変わっていない。

それでもやっぱり、父親の会社から飛び立って外界でもまれたせいか、少し大人びたような印象を受ける。



「延大さんには、お会いになります?」



気になっていたことを尋ねると、彼が手元のグラスに目を落とす。



「結婚直後の年末に一度、会ったきりで」

「久良子も、この春やめました」

「知ってます」



和之さんは、自分が何か申し訳ないことをしたかのように硬い声を出した。

ヤマトさんとは連絡を取り合っているんだろう、社内の様子は伝わっているらしい。

そこに暁が戻ってきた。

ちょうど全員のグラスが空になっていたので、和之さんが私たちを促して、馬券場内の喫茶スペースを出た。



「立ち見のビジョンでいいですよね?」

「もちろんよ、私ちょっと食べるもの買ってくるわ」



暁が意気揚々とフロアを闊歩する。

どう見ても浮いているそのうしろ姿を、和之さんが苦笑して見つめるのを、私はじっと観察した。


彼がまだ私たちの会社にいた頃から感じてはいた。

和之さんは、暁と不思議と仲がいい。

ほとんど接点はないはずなのに、廊下ですれ違ったりする一瞬に、一言二言交わす様子にそれが表れていた。

まさかこんなところで会っていたとは、夢にも思わなかった。

ていうか和之さんて、競馬好きだったのね。

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