ヴァイス・プレジデント番外編
「和華はいないの、いいお相手」
「いないこともない」
「そういうのが、一番もたつくのよね」
「うるさいな」
言い返すと、笑った暁の手の中でグラスが揺れて、コロン、と涼しげな氷の音がした。
出会ったのは、お互い25歳になるかならないかの頃だった。
今や31歳が目の前だ。
一瞬だった。
楽しかったから。
この歳まで独身でいるとは思っていなかったけれど。
ねえ久良子、あんたの時は、今もこんなふうに目まぐるしく流れてる?
憂鬱な時は、時間が重くて、ねばつくよね。
今さらあんたに、そんな時を過ごしてほしくないんだけど。
でもごめん、私も暁も、どうしたらいいのかわからないのよ。
せめて、延大さんが帰国することがあったら、あんたに会わせてあげたい。
それでどうなるか、わからないけれど。
好きな人の顔を見るのに、理屈なんかいらないでしょう。
難しいね、本当に。
何もかもが、うまくいかない。
みんなが、一度に幸せになれたらいいのに。
そんな方法を、思いつけたらいいのに。
夏の日差しは、夕刻になった今も和らぐ様子を見せずに、むしろ力強さを増してガラスを叩く。
まぶしそうに、ビルの上からのぞく太陽を見上げた暁が。
「明日も、暑くなりそうね」
どこか懐かしそうに、そう言った。