ヴァイス・プレジデント番外編
久良子と初めて会ったのも、こんな夏の日だった。

後期の生徒会書記に、なんの因果か引っぱり込まれた私は、久良子の通う校舎の会議用の一室で彼女に会った。

際立って華やかな存在感を放つ久良子が帰国子女というのは、有名な話だった。

だけど、どこの国ですかと尋ねても、久良子は困ったように、美しい唇を微笑ませるだけで。



『それが、なかなか難しいのよ』



久良子、あんたはいつもそうやって、ごちゃごちゃしたものを、そうすれば見なくて済むとでもいうように単純にフタをしてしまいたがる。

あるところまではあけすけに語るくせに、本当に深いところは絶対に見せない。

まだ18歳だったあの当時から、久良子は透き通るような美しさの中に、くすんだ影を感じさせた。


今思えば、あの頃の久良子は、彼女のお母さんが彼女を産んだ年齢を越えていたわけで。

彼女なりに、一番いろいろと思うところのあった時期だったんだろう。


この春まで毎日のようにオフィスで顔を合わせて、汗だくの夏も凍える冬も、快晴の朝も豪雨の夜も一緒に過ごした。

職場が変わるだけで、月に一度会うことすら困難になる。



「久良子、元気かしら」



同じことを考えていたのか、暁がぽつりと言った。



「意外と薄情だから、楽しくやってるんじゃない?」

「ヤマトさんから義理堅さでも分けてもらえばいいんだわ。連絡ひとつよこさないで」



ため息をつきながら、すねたように言う暁は、私たちの中では最後にこの会社に入った秘書だ。

今でこそ対等に接しているけれど、最初の頃は久良子を先輩として崇めていた。

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