許嫁な二人
(14)

 バタバタと走ってくる音がして、車のドアが乱暴に開けられた。



   「ごめん、透ちゃん、遅くなっちゃった。」



 弓道の弓を入れた包みを後部座席に置き、今度は助手席のドアをあけて
 佳奈がどすんと乗り込んできた。



    「騒がしくってごめんなさいね、透さん。これ、お弁当、
     試合の後ででも召し上がってちょうだい。」



 佳奈の乗り込んだ助手席のまどから、叔母の千恵子が顔をのぞかせて
 弁当の包みを佳奈にてわたした。



   「ありがとうございます、行ってきます。」



 透はそう言い、車をスタートさせた。




 弓道の試合会場につき、父の一番下の弟の娘である中学生の佳奈を
 おろすと、車をおいてくるからと言って、透は駐車場の方へむかった。

 しかし狭い駐車場はもういっぱいで、となりの神社の方へ車をまわすように
 いわれてしまい、透はやっと車をとめると、神社をぬけていこうと
 神社の境内に足をふみいれた。

 今日の弓道の試合は、この神社がもっている弓道場でおこなわれる。

 そんなに大きな大会ではない。

 弓道をやりはじめて1年たった佳奈が、度胸試しに出てみたいと
 個人的に出場するのだが、だれも家族の都合がつかず、透にお守役が
 回ってきたのだった。



   「久しぶりだな。」



 神社と弓道場のぴんと張りつめたような空気がなつかしい。

 神社の参道を歩きながら、透はひとりごちた。

 
< 126 / 164 >

この作品をシェア

pagetop