許嫁な二人

 ここは東京の郊外にある神社だが、思ったよりも広い。

 弓道場をもっているとはめずらしが、ご神体のひとつが、鬼退治伝説
 のある弓矢なんだというから、うなずけたりもする。

 近道をしようと参道を脇にそれ、杉林の中に足をふみいれたとき
 林の中にたたずむ人影にきづいて、透は足をとめた。

 


 白と濃紺の弓道着を身につけ、長い髪を頭の後ろで一括りにした女性が
 しめ縄のはってある御神木にむかって手を合わせている。

 その後ろ姿が、よく見知っていたそれと重なって、透は次の一歩がふみだせず
 その女性を凝視した。

 合わせていた手を開き、頭を上げた女性が、こちらを振り向く。

 そこに頭に浮かんでいたのと同じ顔をみとめて、透は体をかたくした。


  (いや、彼女がここにいるはずがない、短大を卒業して、今は実家の
   神社で働いているはず、、、)


 同じように透の姿をみて、おどろいた顔をしていた女性の口がうごき
 透の名を呼んだ。



   「透くん、、、。」
  
   「唯。」


 呼ばれた名前にひかれるように、透は唯のそばまで大股で歩いていき
 唯の目の前にたった。



   「唯、どうして、、ここに?」



 唯が答えようと口をひらいたとき、ドン、ドン、ドン と太鼓の音が
 響いてきた。



   「ごめんなさい、私もういかなきゃ。」
< 127 / 164 >

この作品をシェア

pagetop