許嫁な二人

 慌てて駆けつけた透に



   「そんなに心配せんでも、わしはこれぐらいで
    潰れたりはせんぞ。」



 と、祖父の巌はがははと笑って見せた。




 それでも倒れてすぐは、あぶなかったのだと母が言う。

 なんといっても年が年だから、なにかあってもおかしくない。

 明日はもう東京へ帰るから、もう一度、祖父の顔をみてこようと
 家をでたが、すぐには病院に向かう気にはならず、透は城元小学校
 から桜林第二中学校へ、そして桜下高校へと足をむけた。

 日曜日の今日は、どこも門扉が閉まっていて、しんと静まり返った
 校舎がそこにあった。

 自慢の桜並木も、もう桜の時期はとうに終わり、緑の葉をわさわさと
 茂らせている。

 一通り学校を巡って、透は今度は小里へ足をむけた。



 まだ早い時間だから店は開いていないが、厨房でしこみをする悠がいた。



   「よお、久しぶりだな。」



 高校を卒業して、調理師の専門学校へ進んだ悠は、そこを卒業して
 今はりっぱに小里の店主だ。
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