許嫁な二人

 佐伯というのは、城元小で一緒だった佐伯美穂のことだと
 唯は思った。

 香山先輩が言っていた同小の子というのは佐伯のことだったのだ。

 嘘をついてまで一緒に帰るのを断ったのは、香山先輩が
 言っていたように、二人の間にはなにもないからなのか、、、、
 そんなことを思って、唯がちらりと透を見ると、透は憮然とした
 表情で諸井を見ていた。



   「佐伯さんって、まだ瀬戸くんのことが好きなんだ。」



 良世がそう言うのを聞いて、諸井が下世話な興味丸出しの顔をした。



   「なに、なに、瀬戸と佐伯さんって、過去に何かあったの?」

   「何にもあるわけないだろ、ばーか。」

   「何だよ、瀬戸。おまえちょっともてるからって
    上から目線になってんじゃねーよ。」

   「あ、私も聞いた、けっこう瀬戸くん、告られてるんだって?」



 途端に唯の心臓が、とくんと跳ねた。


  (そんなこと、、、知らなかった、、、)



   「そんなことない、ただの噂だろ!」



 心なしか顔を赤くした透が、叫ぶように言い、目の前のコップを
 引っ掴むと、ゴクゴクと中の水を飲み干した。


  (あ、それ、私のコップ)


 唯はそう思ったが、透は気づいていないようだ。
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