許嫁な二人

 窓から色の変わった木の葉が風にゆれるのを見て
 唯は1年の月日のはやさを思う。

 東京からこっちに帰ってきたのが、1年前のちょうど
 今ごろ。

 この1年間、病気で休んだことは一度もなかった。

 母にも言われたけれど、無事に1年間すごせたことが
 何よりうれしい。

 唯は、窓の方をみたまま微笑んだ。



   「それでは、困りましたね。」



 ため息を含んだクラス委員の声に、唯ははっとわれにかえって黒板をみた。

 今、教室では文化祭にむけての役割決めが話し合われている。

 クラスの出し物は、ベタにカフェに決まったけれど、クラスの代表
 として立看板や横断幕をつくる係がなかなか決まらない。

 校内掲示の制作作業は、結構放課後おそくまでかかるし、やっかい
 だから誰もやりたがらないのだ。

 そのうち、男子の一人が、



   「その係は瀬戸くんでいいんじゃないですか。」



 と言い出した。

 いつものように、透は教室にいない。

 いない人に仕事をおしつけようという気がみえみえだった。
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