許嫁な二人

 ” 瀬戸なら小里っていう店だと思うよ ”と教えられ、放課後
 その店をたずねることにした唯は、今、ものすごく後悔している。

 クラス委員に校内掲示係に決まったことを瀬戸に伝えておいてくれ
 と言われ、丸投げの無責任さに腹がたったものの、仕方がないと
 思い直した。

 元はと言えば、話し合いにでない透が悪いのだ。

 透が明日学校にあらわれたら話せばいいのだが、たくさんの人の目
 がある中で、透に話しかけれる気がしなかった。

 そんなとき、透が学校帰りによっているだろうという店を
 教えられて、店にいるところなら、、、と唯は思ったのだ。

 小里という店を、唯は高校生が学校帰りに寄るようなよくある店だと
 思っていたけれど、どうもそうではなさそうだ。

 だって今、唯は生まれてこのかた、足を踏み入れたことなど無いような
 ところにいる。

 商店街から一本入った裏道は、細い路地にわかれていて赤提灯をぶら下げた店
 や、スナックらしい店が軒をつらねている。

 店もまだシャッターがおりていたりして、人影はない。

 歩いているのは、路地を横切るノラ猫ぐらいなものだ。

 いつもの行き慣れた商店街とは違った空気に唯は心細さを感じた。

 ため息がもれて、あきらめかけたとき、ふと目をあげた先に
 小里とというちいさな看板をみつけた。

 店の構えは、高校生が出入りするようなものではなくて、飲み屋
 であることがわかる。

 あかりはついていないし、暖簾もでていないから、開いていないかもしれない。

 それでも、せっかくきたのだから訊ねるぐらいはしようと唯は引き戸に
 手をかけた。

 


 カラカラカラと戸を開き、ごめんくださいとことわって顔を覗かせると
 それまで響いていた笑い声がピタリとやんだ。



   「唯じゃないか!」



 びっくりしたような声がとんできた先には、カウンターの中の悠がいた。
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