雨のようなひとだった。
「煙草…よかったんですか?」
歩き始めて少し経つと、小首を傾げた彼女が俺の顔をのぞきこむようにして訊ねてきた。
月どころか星も見えないこの街の夜は、その寂しさを感じさせないほど鬱陶しい煌めきで満ちている。
だから彼女の表情は細部までよく見え―――
―――いや、実は見えない。
俺は視力が良い方ではないから、運転以外の場でも眼鏡が必要なことが多い。コンタクトは眼に合わないからほとんど使う事がない。
だけどこの2か月、運転や仕事以外ではほとんど裸眼で過ごしている。
今だって照明のように彼女を照らす光のおかげで白い肌を直視できないというのに、これ以上鮮明に見えてしまったら俺はきっと我慢できない。