雨のようなひとだった。
「お待たせ致しました」
ふわりと鼻先にくすぐる匂いに我に返ると、目の前にはカップと―――微笑むマスター。
オッサンに微笑まれて嬉しくなる趣味はないが、この人には敵わないと俺は知ってしまっている。
彼女の事だけではなく、初めて会った日に。
「……いただきます」
「どうぞお召し上がりください」
目尻の皺が目立つマスターは、ふんふんと頷いて続けた。
「拒まない…というのは、言い得て妙かもしれませんね」
「え?」
そしてそっと俺へ近づくと、周囲に聞こえないよう囁くように言う。
「以前お見苦しいところをお見せしてしまったお詫びのひとつとして、教えてさしあげますと」
「……いえ、あれは別に見苦しくなんか」
というかあのおかげで彼女と同居生活できるようになったというか。
「この店はね、呼び寄せるみたいなんです」
「…………は?」
呼び寄せる?
何を?誰を?