早春譜
運命のドラフト会議
 やがて夏は終わり運命の秋になる。

秀樹と直樹にとって一生がかかる、ドラフト会議が始まろうとしていた。


新人選手選択会議。
通称ドラフト会議。

以前はストーブリーグの開幕とも呼ばれていた。

でも今はクライマックスシリーズが始まり、日本シリーズが十一月に延びたためにその表現は使用されなくなった。


希望選手はまず所属している野球部に、退会届を提出する。
それをやって初めて、出場資格が得られるのだった。


地元ではちょっとした有名人になった二人。

双子のバッテリーを目指してとの、期待する声を励みにその課題を乗り越えようとしていた。




 平成十七年より三年間。
『大学生-社会人ほか選択会議』
『高校生選択会議』
に分れて実施されていた。

平成二十年から一括で開催される。

新人選手は全員で百二十名。

秀樹と直樹も、この中に入っているものとみなされていた。




 プロ野球各球団の、前年度の成績とオールスター戦の勝敗で指名順位が決まる。

一巡目。
投票した希望選手が、他球団と同一なら抽選。
単独指名なら、交渉権が確定する。

二巡目。
逆回りになる。

三・四・五巡と繰り返し、合計人数が百二十名に達するまで行う。
達しない場合、強化育成を目的とした選手を指名することも出来る。
その場合、あくまでも百二十名が限度となる




 報道陣が詰め掛ける中、学校関係者がその対応に追われる。


モニターからは各球団の引き当てた、選手名が次々と発表される。


でも結局どの球団からも、長尾秀樹・直樹兄弟の指名はなかった。


地方の決勝戦で秀樹のツーシームが打ち込まれたことが敗因らしかった。

研究されると使い物にならない。
そのように思われてしまったのだった。


高校に集まった報道陣からもため息が漏れた。

大学に行くか、社会人野球に行くかは、二人の選択に任されることになった。

二人は迷わず社会人野球の道を選んだ。

正樹にこれ以上の負担を掛けたくなかったからだった。

大阪に住む美紀の祖父からは、ドラフト会議の始まる前に大学の入学金などの援助話もあった。
それでも、それに甘えてはいけない。
秀樹と直樹は自らそう決意したのだ。


大は大学に行き、教師を目指すと言う。

三人はそれぞれの思いで、美紀に告白しようとしていた。




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