早春譜
 生徒会としても多くの生徒の反感をかうのは必至だから、携帯電話の類いを学校に持ち込み禁止にはしたくなかった。


それでも渡り廊下や教室の移動時の歩きスマホや授業中のゲームや十八禁マンガなど、目につく行為をしている生徒を野放しにはしておく訳にはいかなった。
生徒会が声を上げることで自粛に繋がれば良いと考えた結果だったのだ。


スマホの持ち込み禁止の噂は予想以上の効果をもたらせたのだった。


そう……
あくまでもそれはデマに近い情報だったのだ。




 生徒会は会長一名。副会長二名。書記二名。会計二名。会計監査二名の合計九名で成り立っている。


四月のオリエンテーション。
五月の球技大会。
六月の生徒総会。
六月と七月のインターハイと呼ばれる、高等総体強化育高校学校総合体育大会。
九月体育大会。
十一月文化祭。
合唱コンクール。
マラソン大会。

それらの行事を遂行するのが生徒会の役割だったのだ。




 「ところで直美、頼みがあるんだけど。図書館に行って本を借りて来てくれる?」


「どんな本?」


「野球のスコアブックの付け方ってのがあれば良いのだけど……あっ、後は適当に見繕って」


「解った。明日持って来るね」
直美はそう言って、家路に向かった。




 でも直美は早速本を買って戻って来た。


「えっー!? 買ったの」
これには詩織も驚いた。


「詩織の言いたいことは解ってる。私にマネージャーをやらせたいんでしょ? だったら買うしかないって思ったの」


「直美……アンタって子は」


「さぁ、始めるわよ。詩織、何時までも泣いてないの」


「だってアンタ。手芸部作りたいって」


「うん。今でもそう思ってる。でも詩織の一大事だもん。私が代わるしかないと思ったの」

詩織は直美の言葉に泣いていた。




 詩織は早速その本で特訓を始めた。
直美の行為を無にすることは出来ないと、涙を拭いたのだ。


「ねえ直美、本当に良いの?」
それでもまだ詩織は迷っていた。


「工藤らしくないぞ」
言ってしまってからハッとした。
淳一は詩織のことを何も知らなかったのだ。


「先生ったら、詩織のこと何も知らないクセに」
直美は笑っていた。


「あ、それは認める。実は卒業後アメリカで取材中の工藤のママに会ってきたんだ。だからかな?」


「えっ、ママに。私も会いたかったな」


「あ、そうだった。その時あの鍵を渡されたんだ」


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