Time Paradox
8人はまた、さっきと同じアーノルド家の応接間でテーブルを囲んでいる。
時計を見るとすでに4時半を回っていた。


「ハンナ様の瞳の事は例えとして用いただけなのでは?」

アドルフが言うとみんな頷き、モーリスが口を挟んだ。

「…もしかしたらこの本にヒントが書いてあるのかもしれない。」

みんなはまた真ん中に置いてある絵本を見る。


リリアーナが絵本を開こうとした時、ジャックが声を上げた。

「その本のタイトルだけど、何でブルー・トパーズなんだ?」

一見関係のなさそうなジャックの発言だが、アドルフははっとした。

「…もしかして、それが答えなのでは?」

その言葉にみんなは一斉にアドルフを見る。

「トパーズとは宝石のことで、様々な色があるのですが、大体の人はハンナ様の目と同じような水色の宝石をイメージします。もしかするとあの妖精はそれを言いたかったのでは?」

みんなはその推理に拍手を送った。

「さすがは宝石マニアのアドルフだわ!」

リリアーナが言うと、アドルフは大袈裟に照れる仕草をしてからまた話し始めた。

「トパーズの石言葉はたしか…希望、知性、繁栄で、語源はギリシャ語で“探し求める”だそうです。」

その場にいる人間はリリアーナですらアドルフの博学ぶりに舌を巻いた。

「アドルフ様が宝石好きだなんて、噂でも聞いたことがありませんわ…」

イザベラは両手を合わせ、目を丸くしながらつぶやいた。

「お城でもそこまで知られていないと思いますよ。僕がもし王子という身分でなかったら、きっと宝石に関わる仕事をしていた事でしょう。」

アドルフは何だか夢を見るような調子で言った。

「とにかく、妖精がブルー・トパーズを必要としているのは分かったわ。それを探しに行かなきゃね!」

その言葉にみんなは目を丸くした。

「探しに行くって…宝石はそう簡単に見つからないから高いんですよ?それにトパーズの原産地はとても気温の高い国で、ここからは遠い所にあるかと…」

「そ、それはそうね…。」

リリアーナは適当に放った言葉に自分でも苦笑いをし、口をつぐんだ。

すると知らない間に何やら本を開いていたアドルフが、また解説を加えた。

「パワーストーンとしては、未来に希望をもたらしてくれるのだそうです。鬱蒼とした状態を払い、自分にとって必要なものを見つけやすくしてくれる、と書いてあります。また、自分に必要なものやチャンスを引き寄せる…など。」

「…どうでもいいけど、アドルフはいつの間にそんな本を持ち歩くようになったの?」

「かなり前から持ち歩いていましたよ。この本は父上からプレゼントされた物なんです。」

アドルフは嬉しそうにその分厚い本を閉じると、今度は意外にもデイジーが口を開いた。

「…妖精は宝石や花などの力を借りて強力な魔法を使うんです。それでそのような意味合いのトパーズを条件として持って来させようとしたのでは?
未来に希望をもたらす、というパワーストーンの効果は、未来を変えようとしている私達にピッタリとはまりますから。」

「すごいわ、デイジー…!」

「デイジーがそんなに妖精に詳しかったなんて、同じ家に住んでいるのに気が付かなかったわ!」

「絵本や童話が好きで、よく読んでいたんです。妖精に会えたなんて、本当に夢みたいで…!」

デイジーも夢を見るような調子で言った。
< 114 / 229 >

この作品をシェア

pagetop