Time Paradox
二人は一人一人の挨拶に応え、お礼を言う。


それも大体ひと段落した頃、音楽は優雅なワルツに変わっていた。

一組の男女がそれに合わせて踊り始めると、それを見ていた人々も次々に踊り始めた。その中にはフランクとフローラの姿もある。


リリアーナとアドルフがぼんやり見入っていると、曲が終わった頃に2人がやって来た。

「アドルフさん達も踊らないの?」

「次の曲が始まった時にでも行こうと思っ…」

「あ、ルイスさんだ!」

言いかけたリリアーナの言葉を遮り、フランクはルイスに声をかけた。

「ルイスさん、こんにちは!」

「モンフォワーシュの城で会うのは何だか初めてな気がするね!」

ルイスはリリアーナとアドルフの視線にうろたえながらも、2人の挨拶に笑顔で応える。

「…それじゃあルイスはアリティア王国のお城によく行くの?」

リリアーナが気になって尋ねると、ルイスではなくフランクが答えた。

「たしか…ルイスさんはアリティア王国出身なんだよね?それでよく見かけるんだと思うけど…」

その言葉にリリアーナははっとした。
だがアドルフは何の違和感も感じていないようだ。

それもそのはず、昨日の毒の話をアドルフにはまだ話していなかったのだ。


そうこうしているうちにルイスはいなくなってしまい、次の曲が始まろうとしていた。

「ハンナ様、踊らないんですか?」

その声に我に返ると、アドルフは手を差し出している。

「あぁ!そうね、踊りましょう!」

そう言ってリリアーナがその手を取ると、ゆったりとしたテンポの曲が流れ始めた。

リリアーナはその流れに乗って踊りながらも、新たな発見をアドルフに打ち明けることにした。

「…ねぇ、アドルフ。昨日の夜中、アーノルド家のお手伝いさんが私に毒を盛ったんだけど…」

リリアーナがそう言ったところでアドルフは目を見開き、口を大きく開けた。

「だめ!…頼むから大きな声出さないで、黙って聞いてて。」

あと一歩の所でリリアーナが真剣な顔でそう言うと、アドルフは大きく吸った息を静かに吐き出し頷いた。

「そのお手伝いさんはお城に住むアリティア王国出身の人間から”直々に”頼まれたって言うの。アリティア王国出身と言えば、マーカス様でしょ?でもマーカス様なんてありえない。だって国王が城を出るには許可が必要だし、城を抜け出したりなんかしたら絶対に気付かれるもの。」

「…まさか、ルイス…」

「だと私は思う。それに、言い方は悪いけど…ルイスはただの家庭教師よ?家庭教師なら、私達の指導がない時間にはいつでも外に出られるわ。証拠はないけど、この城でアリティア王国出身なんてマーカス様かルイスくらいでしょ?」

「…そのようですね。ルイス…ますます怪しい奴だ。ですが…またどうしてハンナ様を?」

「そうなの…それが分からなくて。」

2人はしばらく黙って踊り続け、やがて曲が終わった。
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